最高に素晴らしい作品だった。
ドンピシャで、自分のツボにハマった。
原作の空気がかなり好みだったので、映画化された時に、いったいその何パーセントぐらい再現出来ているのだろうか、という気持ちで観に行った。たいがいの場合、原作の良さは影も形もない、もはや別物の作品になっていてがっかりするのが常だ。
しかし、とんでもなかった。映画のほうが、原作をはるかに上回っているという逆転現象が起こっていた。原作の空気感を、確実に280パーセントぐらい再現している。原作がコーヒー牛乳だとしたら、この映画版は、エスプレッソのような、作品のエッセンスを純粋に抽出した仕上がりになっている。
一つの小説を2時間の映画に収めるという時には、どうしても省略する部分が必要と思うのだけれど、それが非常に的確におこなわれた結果なのだと思う。余分なエピソードはすべて削ぎ落とした上で、残った部分を先鋭化している。
ツボにハマった部分はいくつもあるのだけれど、まずなんといっても、建築物や内装の美しさだ。舞台設定としては、おそらく東欧か中欧あたりをイメージしているのだろう。その、暗くて乾いた、ややレトロな感じが、作品の雰囲気にぴったりとマッチしていた。
軍施設なのに、建物が古民家風で、陶器やオルゴールが置いてあるというミスマッチもいいし、日本語と英語が公用語になっているような、どこだかわからない微妙なパラレルワールド感もいい。たとえばタバコの赤い箱のような小物に至るまで、隅から隅まで、とにかくセンスが素晴らしかった。
それと、作品のヒロインである草薙水素の魅力と狂気。
これは怖ろしい。セリフによってではなく、一つ一つの視線やしぐさ、不自然な間、によってそれがひしひしと伝わってくる。一つだけ残念だったのは、草薙水素の声がイマイチだったことだ。ここだけは、本職の声優を起用するべきと思った。それと対照的に、土岐野役を担当した谷原章介の声は、とても良かった。
技術的には、最新の技術を使って作った絵ではないと思う。戦闘機同士の空中戦などは、かなり臨場感があって、とても美しいのだけれど、CGの使用はポイントのみに抑えて、あとは手作りで作っているような味が残っている。夜間飛行のシーンは特に最高だった。
スタッフロールが終わった後に、短いエピローグが残っているので、もう終わりだ、と思っても席を立たないよう注意。
この映画は、出来れば、小説版を読んでから観ることをおススメする。
そのほうが、ベースの世界観を理解しやすいということもあるけれども、それ以上に、原作との違いに驚かされるのだ。
「キルドレ」と呼ばれる、少年パイロットの救われなさが主題ではあるけれど、いったい「キルドレ」とは何であるのか?という説明はまったくない。それだけでなく、何ための戦争か、というところなど、基本情報についての解説はほとんどなし。だから、観る人によっては「さっぱり意味がわからない」ということになるだろう。
自分は、そういうところは全然気にならず、むしろその、想像力にゆだねる割り切り方がとても気に入ったのだけれど、この、あまりに無機質な雰囲気に違和感を感じる人も多いに違いない。
その点、非常に好みが分かれる映画だろうと思うし、人にススメる時には、かなり相手を選んでしまう作品だ。
■スカイ・クロラ公式サイト
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