【ベストセラー】『時間は存在しない』過去も未来もない


今回ご紹介するのは、『時間は存在しない』です。

著者のカルロ・ロヴェッリさんは、イタリア、ヴェローナ生まれの理論物理学者です。
量子重力理論を研究しつつ、一般向けの本も多く書いており、この『時間は存在しない』は、2018年にイタリアで18万部を超えるベストセラーになった後、35カ国で刊行され、タイム誌の「ベスト10ノンフィクション」にも選ばれています。

原題は「L’ordine del tempo」(ロルディネ・デル・テンポ)で、「時間の順序」という意味です。

この本のメインテーマになっているのは、時間には順序がない、つまり、私たちが思っているような、過去も未来も、物理学的には区別がない、ということです。
これはどういうことなのか、見ていきましょう。

時間の進み方は場所によって違う

まず、簡単な事実から始めましょう。
時間の流れは、山では早く、低地では遅く進みます。

その差はほんのわずかですが、正確な時計を使えば、実際に計って確認をすることができます。

これは、私達が感じている感覚からはかけ離れていますが、現実が見かけと違っている、ということは、よくあることです。

地球は平らに見えて実際には丸かったり、太陽は空を回っているように見えて、回っているのは私たちのほうだったりするように、時間も、見かけとは違って、実は、どこにでも同じように流れているわけではないのです。

アインシュタインは、それを測定できるくらい精度の高い時計ができる100年も前に、時間の流れは均一ではないという事実に気づきました。

時間には方向がない

そして次に、驚くべき事実として、時間には方向がありません。
過去と未来を区別するものは、物理法則のどこにも存在しないということです。
ニュートンの力学的世界の法則も、過去と未来を区別することはできないのです。

方程式に従ってある出来事が起こるのであれば、同じ出来事を時間をさかのぼって逆に進めることもできます。
たとえば、ボールは落ちることができるだけでなく、跳ね返ることによって、戻ってくることもできます。

唯一、時間の方向が意味を持つのは、熱が関係している時です。
熱は、温かいものから冷たいものに移るという一方向にしか進まず、その逆に冷たいものから温かいものに移ることはありません。

これは別の言葉で表現をすると、エントロピーは常に増大していく。つまり、規則がある状態から、不規則な状態へと進んでいく、ということになります。
これはたしかに、時間の方向を定めるために利用できるような気がします。 

しかし、ある状態に規則があるかどうかは、厳密に定義できるものではなく、結局、人間の判断によるものでしかないのです。

たとえば、52枚のトランプがあって、もし、1枚目から26枚目まですべて黒で、その後の26枚がすべて赤だったら、そのカードの並び方には規則があるように見えます。

ですがこれは、見た人がたまたま色に注目をしたからそう見えただけで、他の要素を見ると、たとえば数字はバラバラであり、その並び方は不規則だといえるのです。

そうなるとやはり、物理的に時間の方向を定めることはできない、という結論にたどり着きます。

量子重力

カルロ・ロヴェッリさんの専門は、「量子重力」と呼ばれる分野で、これは、量子力学の視点から、空間や時間の性質を調べる方法です。

量子力学は、次の3つの発見をもたらしました。
1.物事は粒状である(粒状性)
2.物事は不確定である(不確定性)
3.物事はほかとの関係に依存する(関係性)

時計で測った時間は「量子化」されています。
たとえば、15時46分36秒というように特定の値で示されます。
つまり、時間を連続的なものではなく、粒状のものとして扱っています。

「量子」というのはもともと基本的な粒のことで、あらゆる現象に「最小の規模」が存在します。
最小の時間は「プランク時間」と呼ばれていて、1秒の1億分の1の10億分の1の10億分の1の10億分の1、つまり10の-44乗秒という長さになります。

この世界はごく微細な粒からなっていて、連続的ではありません。神はこの世界を連続的な線では描かず、スーラのように軽いタッチで点描したのです。

この世界は、物ではなく出来事でできている

量子力学からわかった単純な事実は、この世界は絶えず変化している、「出来事」のネットワークであるということです。
この世の中は、「物」ではなく、「出来事」の集まりだということになります。

いかにも「物」らしいものでも、長く続く「出来事」であるにすぎません。
たとえば、硬い石は、実は量子場の複雑な振動であり、複数の力の相互作用の結果存在するものであり、崩れて再び砂に戻るまでのごく短い姿でしかありません。

物理学ではずっと、この世界を、何かの実体があるものとして理解しようとしてきましたが、調べれば調べるほど、そこに「在る」という観点ではこの世界を理解できないように思えてきます。
出来事同士の関係としてとらえたほうが、はるかに理解しやすい構造になっているのです。

まとめ

ということで今回は『時間は存在しない』の内容について解説をしました。

世界は「物」ではなく、「出来事」の集まりであるという説明は、仏教の世界観に通じるものがあると、私は感じました。

この本の特徴は、物理学者が専門的なことを語っているにもかかわらず、数式がまったく登場しないということです。
それよりも、詩や哲学からの引用が多く、まったく理系の知識がない読者に対しても、なるべくわかりやすく理解してもらおうとしていることが伝わってきます。

本の中では、私達の常識をくつがえすような時間の特徴について、より詳しく語られていますので、この動画を見て興味を持ったかたは、ぜひ実際に読んでみてください。

解説動画