魔笛

魔笛 (講談社文庫)
魔笛(野沢尚/講談社)

コメント

渋谷のスクランブル交差点で実行された爆弾テロの犯人と、それを追う刑事の物語。話しは犯人の側の視点から書かれており、逮捕後に、犯人が刑事にインタビューした内容を元に書いた手記という形式になっている。
江戸川乱歩賞の候補になっていたというけれど、実在する、特定の新興宗教団体を想起させる内容のために、取り下げになったらしい。
現役の刑事が服役中の囚人と結婚をしたり、新興宗教の幹部が元公安の人間だったりと、ちょっと設定が現実離れしすぎな感じはあるし、爆弾処理班の人も、実際にはあり得ないぐらいの勇敢さなので、あまりリアルさは感じられないけれど、展開や人間関係がドラマチックで、物語としての面白さは充分にある作品だと思った。

名言

無思想とは、思想をゼロにすることではない。思想を取り替え可能な技術にすぎないものとして扱う態度である。日本人が、仏教やキリスト教やマルクス主義を本来の思想としてではなく、組み換え可能な技術として受容してきたのは、神道という「たたずまいの美意識」というマナーを持っているからだ。(p.102)

私と同じように出家した信者は、どれも同じ顔に見えた。
彼らは一様に「純粋病」にかかっていた。不純な世の中を自分の手で立て直したい。こうした欲求を引き受けてくれたのが、かつてはファシズムや左翼イデオロギーだった。純粋なるものがこの世の宝石であると信ずる病気に、誰でも青年時代に一度はかかるものだが、いつまでたっても純粋病患者を卒業できない人間とは、本人は自覚していなくても、実は裏返しの権力主義者なのだと私は思う。(p.123)