とっぴんぱらりのぷぅ(田中芳樹/光文社)
田中芳樹氏の書く小説には、物語の面白さが存分に含まれている。
それは、田中氏自身が、小さい頃からとにかくたくさんの物語を読んでいた少年であったことから影響を受けたものであるらしい。その思い出を振り返りながら、どんな物語に影響を受けてきたかを語るという、ちょっと変わったブックガイド。
紹介されている本としては、古今東西の名作と言われている作品ばかりなのだけれど、それを田中氏が説明すると、より一層、面白いものであるような気がしてきて、まだ読んでない本は是非とも読んでみたい気分になる。
視点がやはり、「面白い物語とはいったい何なのか?」ということを常に考えてきた人からの言葉なので、分析がとても的確で細かいし、とにかく名作と言われる作品についての知識が豊富なことに驚かされる。
選書があまりマニアックではなくて、広い層にその良さが理解出来るような作品ばかりを取り上げているというところもいい。
考えてみれば、「銀河英雄伝説」も「アルスラーン戦記」も、その原型は過去の名作の基本を踏襲した作りになっていて、そのプロットは、定番作品の緻密な分析に基づいたものだったのだということがよくわかる。
【名言】
「水滸伝」のヒーローたちは、そのほとんどが奥さんや恋人に裏切られて、世を捨てているんですよ。健全な夫婦関係が断たれて「普通の家庭」から切り離されたとき、そもそも社会にはいられなくなる、という状況があるわけです。実際、梁山泊はユートピアではなく、むしろ魔界なんです。世間に居場所のない人たちがそこに集まっていく。(p.97)
漫画は視覚的な表現の効果という点では明らかに小説を上回るわけですが、たとえば聴覚に関わるような面では、やっぱり小説のほうが表現の幅があると言えるでしょうね。(p.126)