BRAIN VALLEY(上)(下)
(瀬名秀明/角川書店)
【コメント】
あらゆる生物の中で「神」を持つのは人間だけであるという。神は人間の脳の中で創られるからであり、逆に考えれば脳を人為的に操作することが出来るとすれば、神を自分自身の手で創造出来るということでもあるのだ。
人間という存在を解き明かす上での最大の鍵であり、最大の壁でもある「脳」の話題を中心として、話しのテーマは宗教・宇宙生命・霊長類学・臨死体験・実在論、などあらゆる分野に広がってゆく。哲学とはまったく別のアプローチから「神」とは何か、についてここまで迫っているということに、本当に驚く。
医学系の出身である著者の膨大な知識と構想力の組み合わせによって書かれた、すごいスケールの作品だった。これこそが読書でしか味わえない感動なのだろうと思う。
【名言】
なぜそれに気づかなかったのだろう、とメアリーは思った。真に研究すべきことは、いかに死期を延ばすかではない。いかに死ぬかだ。死ぬとき、人はどうなるのか。死んだらどうなるのか。それこそ、いま求められている学問なのだ。(p.28)
ヒトは誰も「心」の呪縛から逃れることは出来ない。その証拠に自分は父を嫌悪し、息子を嫌悪し、妻を嫌悪している。そして嫌悪の感覚を作り出しているのは脳であり、体内を巡る血液中の免疫細胞であり、ストレスタンパク質であり、ホルモンであり、神経伝達物質なのだ。すなわちこの体であり、すなわち「心」であり、すなわちニューロンネットワークと無数の分子なのだ。(p.151)
誰にでも死は訪れる。生まれたからには死ななければならない。自然の摂理だ。
だが、それならば、なぜもっと死を積極的に受け入れないのか。
人間ならばプライドを持ち、心地よい感覚を欲し、愛されたいと願う。そんな当たり前のことが、死の瞬間にはおざなりにされてしまう。死の瞬間が最高のものでなくて、何が素晴らしい人生か。(p.191)
どうしても神の声を聞きたい。神から新たな叡智を授かりたい。そう思った。そして私はひとつの解決策を見出したのだ。そう、ヒトの脳よりも優れた脳を創ればよいではないか。(p.254)