会社の品格 (小笹芳央/幻冬舎)
「会社」というもののが一体何なのか、その捉えかたは、人によって違う。会社というのは、法人という呼び方があるように、擬人化された一つの人格なのだという定義から話しは始まる。以前は、会社と従業員との関係というのは対等ではなく、会社が社員を縛り付けて、お互いに身動きがしにくい時代だった。だから、いったん入社したら他の会社と比べる機会もなく、自分の会社がやっていることについて公平に判断をすること自体が難しいことだった。
しかし、終身雇用という制度が事実上なくなり、人材が流動している今では、会社にこそ品格が厳しく問われるようになっている。では果たして、会社の品格というのはどの点で明らかになるのか、というのがこの本のテーマだ。
章ごとに、「組織の品格」「上司の品格」など一つ一つの項目に分けて語られているが、一番面白いと思ったのは「処遇の品格」についてだった。株主に経営情報を公開するように、社員にも情報開示が必要だという。求人活動は、会社にとってとても重要な活動だけれども、それをどのようなポリシーでおこなっているかというのは、確かに、会社の品格が最も問われる部分だと思う。社員のことをどれだけ大切にするかによって、会社はその質を判断される。社員によって選ばれる資格がある会社とはどういう会社なのか、考えるきっかけをたくさん与えてくれた本だった。
【名言】
本来、会社と社員との関係の結び方には2つの方法があります。ひとつは、辞めにくい会社を作って、辞めてほしい人に辞めてもらうことです。そしてもう一つの方法は、辞めやすい会社を作って、辞めてほしくないハイパフォーマンスのリテンション、在職維持に努めることです。相互拘束時代には、多くの会社が前者の考え方を前提に、処遇のルールを作ってきたわけですが、これからの相互選択時代には、後者の考え方を採用する必要があります。そもそも、辞めにくい会社を作って、辞めてもらうというやり方は、莫大なエネルギーを要するものです。(p.166)
アンフェアな採用活動は、もう許されない時代になります。なぜなら、人材獲得競争は、会社にとってひとつの重要な業務だと広く認識され、会社の体質がここで浮き彫りになるからです。今後は、採用シーンにおいて、会社の品格が表に出てきやすくなるでしょう。例えば、学生を拘束するということは、人の自由を束縛してでも自分達の目的を達成するんだ、という価値観を表しているといってもいいでしょう。実際には選考会なのに、そうではないと言って学生を集めるのは、手段を問わずにとにかく結果を出すためにウソをついてもいい、という体質を表しているともいえる。(p.182)
経営者や幹部はときどき、社員の時間は無尽蔵にあるという感覚に陥ることがあります。社員の時間はすべて自分達が預かったものだという考え方をしてしまう。そういう空気が広がっている会社は、品格的に相当な問題があると言わざるをえません。時間は資源である、という意識がないからです。この意識が典型的に表れるのは会議です。実は、「会議を見て、この会社はダメだという結論を下してしまう」という声が驚くほど多いのです。(p.156)