1Q84 BOOK3


1Q84 BOOK3(村上春樹/新潮社)

このBOOK3は、BOOK1~2の続編というよりは、かなり外伝的な位置づけの小説だと思った。BOOK1~2に登場した主要人物のうち、BOOK3ではほとんど登場しないキャラクターもいるし、BOOK1~2で大きなテーマであった「空気さなぎ」やリトル・ピープルについても、ほとんど触れられていない。
なにより、作品自体の雰囲気が、だいぶ変わってしまっている。
このBOOK3の構想が、作者の頭の中で、どの時点からあったのかわからないけれど、もともとBOOK2で完結しているような構成のところから、追加で出しているわけだから、ほぼ全編が、壮大な付け足しのような感じがある。
謎が新たに解決されたという実感があるわけではなく、内容的にも、とてもゆっくりと物事が進むような展開だったので、どうも本編とは別の流れの、アナザーストーリーを読んでいる気分だった。
この本の影響で、作品の中に登場する、「失われた時を求めて」が売れたりするんだろうか。いきなり全巻買ってしまう人はあまりいないだろうけれど、しばらく、図書館では借りられない状態が続くのかもしれない。
BOOK4は、果たして出るのか、出ないのか。BOOK3で完結しているような気もするし、更に続きの話しを書くことも出来そうな気もする。この、ある種、連載マンガのような、共に物語の行く末を作者と見守る感じというのは、作品を同時代で読めているからこその面白さなのだと思う。
【名言】
「また乗せてくれる?」
運転手は躊躇した。「あの、お客さんがそこで口に入れてたのは、拳銃みたいでしたけど」
「そう」
「本物ですか?」
「まさか」と青豆は唇を歪めて言った。(p.39)
「プルーストの『失われた時を求めて』はどうだ?」とタマルは言う。「もしまだ読んでいなければ、読み通す良い機会かもしれない」
「あなたは読んだ?」
「いや。俺は刑務所にも入っていないし、どこかに長く身を隠すようなこともなかった。そんな機会でもないと『失われた時を求めて』を読み通すことはむずかしいと人は言う」(p.44)
これが生き続けることの意味なのだ、青豆はそれを悟る。人は希望を与えられ、それを燃料とし、目的として人生を生きる。希望なしに人が生き続けることはできない。しかしそれはコイン投げと同じだ。表側が出るか裏側が出るか、コインが落ちてくるまではわからない。そう考えると心が締めあげられる。身体中の骨という骨が軋んで悲鳴をあげるくらい強く。(p.93)
フクロウは林の中で意味ありげに鳴き続けていた。その声は天吾の耳には励ましのようにも聞こえたし、警告のようにも聞こえた。励ましを含んだ警告のようにも聞こえた。とても多義的だ。(p.178)
少女は現れて、去っていった。我々は異なった方向からやってきて、たまたま進路を交差させ、束の間視線を合わせ、そして異なった方向に離れていった。俺が深田絵里子と巡り合うことはもう二度とあるまい。これはたった一度しか起こり得ないことなのだ。仮に彼女と再会することがあったとして、今ここで起こったこと以上の何を彼女に求めればいいのか?我々は今では再び遠く離れた世界の両端に立っている。そのあいだを結ぶ言葉などどこにもありはしない。(p.378)
あなたが僕の実の父親であったにせよ、なかったにせよ、それはもうどちらでもいいことだ、天吾はそこにある暗い穴に向かってそう言った。どちらでもかまわない。どちらにしても、あなたは僕の一部を持ったまま死んでいったし、僕はあなたの一部を持ったままこうして生き残っている。実際の血の繋がりがあろうがなかろうが、その事実が今さら変わることはない。時間は既にそのぶん経過し、世界は前に進んでしまったのだ。(p.489)
「シェイクスピアが書いているように」とタマルはそのいびつな重い頭に向かって静かな声で語りかけた。「今日死んでしまえば、明日は死なずにすむ。お互い、なるたけ良い面を見るようにしようじゃないか」(p.508)
心という作用が、時間をどれほど相対的なものに変えてしまえるかを、その光の下で天吾はあらためて痛感する。二十年は長い歳月だ。そのあいだにはいろんなことが起こり得る。たくさんのものが生まれ、同じくらいたくさんのものが消えていく。残ったものごとも形を変え、変質していく。長い歳月だ。でも定められた心にとっては、それが長すぎるということはない。(p.571)
1Q84 BOOK1~2(水晶堂)

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