人生を決めた15分 創造の1/10000


人生を決めた15分 創造の1/10000(奥山清行/ランダムハウス講談社)

奥山氏は、3大スポーツカーと言われるコルベット、ポルシェ、フェラーリ、すべてのデザインを手がけた経験がある、唯一のデザイナーだ。「イタリア人以外で初めてフェラーリをデザインした男」でもあるらしい。
この本を読むと、彼自身、とても強烈なポリシーを持ってこれまで仕事をし続けてきたことがよく伝わってくる。日本に生まれて、日本の大学を出てはいるけれども、それ以降はずっと世界を活動の舞台としてきた。だからこそ、奥山氏には日本と、日本以外との違いがよく見えるのだろうと思う。
筆者の姿勢でとても尊敬出来るのは、誰よりも多くのデザイン画を描き続けてきて、今もまだ描き続けているという、その仕事量だ。
タイトルの、「人生を決めた15分」というのは、2年がかりで取り組んできたデザインをフェラーリ会長が却下した際に、最後のチャンスとして与えられた15分の中で描いたデザイン画が採用になったというエピソードからきている。
誰よりも量をこなしてきた奥山氏だからこそ、15分という時間で自分の持つ力のすべてを凝縮して、発揮することが出来たのだと思う。
デザイナーの描いた、まだ物が出来上がる前のラフデザインというのは、それを描いた人の素の気迫が伝わってきて、とても面白い。
この本は、奥山氏のデザイン画が、全ページにわたって公開されていて、その数々の美しい作品を見るだけでも充分に価値のある本だった。
【名言】
「好きなこと」というのはそんな風に、後から考えると一貫して自分の人生の上に存在しているものなのかもしれない。ふと気がつくと、或る一本の道を知らず知らずのうちに歩んでいたことになる。(p.40)
注文が来てからデザインをするのでは遅い。どんなプロジェクトにも常に準備ができていることが大切だ。来るか来ないかわからない仕事のためにアイデアを出すわけだから、無駄も覚悟の上だ。(p.45)
この手の絵は今までに何枚描いたかわからない。もう天文学的な数に上ると思う。思いついたら描き、描いた絵を見て新たな着想を得る。脳から手へ、手から脳へのキャッチボールにより、小さな発想が大きなアイデアへとふくらんでいく。だから僕は、今でも世の中で一番絵をたくさん描くデザイナーだと思う。(p.66)
世界中のどんなデザイナーよりもたくさんの絵を描き、数多くのクレイモデルを削ってきた自負がある。「自分より多くクルマの絵を描いた人はいない。粘土をいじった回数も自分が一番多い」という事実があるからこそ「だから負けるわけがない」という自信に繋がってきた。(p.75)
お客さんの生活を豊かにしたいと願う姿勢があれば、そこには自ずと何らかのストーリーが生まれるはずだ。それを知ってもらうだけでも、ファンは作れる。(p.107)
手で描いていると、ときどき頭でイメージしていたのとは違う線が描けてしまうことがある。すると、そこを起点として新たなイメージがふくらんでくる。こういう偶然性はコンピュータには期待できない。だから手で描くことが大事なのだ。(p.120)
人間はみな、自分で自分の人生をデザインする存在だ。少なくとも僕はそう信じている。ビジョンを持ってそれを実現していくことで、人生は豊かに彩られるのだ。(p.140)