この本は、2014年に日本語版が発売されて以降、22万部以上売れているベストセラーになっています。
「エッセンシャル」というのは、「本質的な」という意味ですが、この本で語られているのは、自分の人生にとって本当に本質的で重要な事にだけ集中をするべき、ということです。
つまり、それ以外の、本質的ではない事柄はすべて、迷うことなく捨てなくてはなりません。
これは、本当に有意義な人生をおくるために非常に大事なことですが、実際に実践できている人はとても少ない内容でもあります。
成功者のパラドックス
まず最初に、「成功者のパラドックス」についてご説明します。
皮肉なことに、優秀な人であればあるほど、このエッセンシャル思考の実現が難しい、という事実があります。
これは「成功者のパラドックス」と呼ばれるものが原因で、優秀な人は、頼まれた仕事をきちんとやり遂げるので、周りから「頼れる人」という評判を得ることになります。
そしてその結果、その人はさらにたくさんの仕事を頼まれるようになり、本来やるべきことをやる時間やエネルギーがなくなる、ということが起こってしまいます。
この悲劇を避けるためには、本当に重要なことに集中をして、それ以外の頼まれごとは断ることです。
人からの依頼を断るのは勇気がいることですが、本来やるべき仕事だけに集中することで、仕事の質も高くなり、結果的には周りからの信頼を得ることにつながるのです。
選ぶ力を手放すな
私たちは、時間とエネルギーの使いみちを自分で選ぶことができます。これが大前提です。
選択肢は限られているかもしれませんが、それでも、選択肢のなかから何を選ぶかは、いつでも自分次第です。
エッセンシャル思考の最初の一歩は、「選ぶ」ことをみずから選ぶ、ということです。
自分で優先順位が決められない人は、だんだん自分の意思がなくなり、他人に言われたことを黙々と実行するだけになります。
選ぶ力を手放すことは、他人に自分の人生を決めさせることと同じなのです。
すべてのノイズにNOと言う
パレートの法則、またの名を「80対20の法則」をご存知でしょうか。
経済学者のヴィルフレド・パレートが提唱した法則で、売上の80%は、たった20%の商品から生み出される、というものです。
これはつまり、努力と成果が比例するとは限らない、ということで、まんべんなくあらゆる事を努力するよりも、本当に重要なことに集中をして努力をするべきだ、ということを示しています。
リーダーシップ論の権威、ジョン・C・マクスウェルはこう言っています。
「ごく限られた少数のものだけが非常に役立ち、その他のほとんどは無価値だ」。
多数の良いチャンスは、少数のものすごく良いチャンスに遠く及びません。
本当に重要なことにイエスと言うために、その他のすべてのノイズにノーと言うのです。
トレードオフを受け入れる
何かを選ぶということは、他のものを捨てるということです。
エッセンシャル思考の持ち主は、この、トレードオフを当たり前の現実として受け入れています。
サウスウエスト航空は、至れり尽くせりのサービスで価格をつり上げるのではなく、機内食を出さないことを選び、座席指定も廃止して、単純に飛行機を乗り物として使ってもらうことにしました。
はじめのうち、このやり方は批評家から批判されて、そんなやり方がうまくいくわけがないと思われていました。
ところが2年もたつと、サウスウエスト航空の経営は軌道に乗り、大きな利益を上げはじめたのです。
他の航空会社はその成功に驚き、やり方を真似ようとしましたが、しかし、中途半端に片足を突っ込んでみただけでした。
コンチネンタル航空は、機内食や手厚いサービスを廃止して、料金を安く抑えるプランを開始しましたが、従来の通常のサービスも並行しておこなっていたために、期待していたほどコストを削減できず、結局、厳しい価格競争の中で、業績は悪化して数億ドルの損失を出しました。
非エッセンシャル思考の人は、トレードオフが必要な状況で、「どうすれば全部できるか?」と考えます。
しかし、エッセンシャル思考の人は「どの問題を引き受けて全力をそそぐか?」をまず選択します。
小さな違いですが、積み重なると人生に大きな差がついてくるのです。
エッセンシャル思考になるための方法
それでは次に、エッセンシャル思考になるための、具体的な方法を見ていきましょう。
本当に重要なものごとを見極めるために必要ことは次の5つです。
1.じっくりと考える余裕
2.十分な睡眠
3.何を選ぶかという厳密な基準
4.断固として上手に断る
5.過去の損失を切り捨てる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.じっくりと考える余裕
数多くの、どうでもいいノイズの中から、数少ない重要なことを見分けるには、誰にも邪魔されない時間を確保することが不可欠です。
エッセンシャル思考の人は、目の前の選択肢にすぐ飛びつかず、調査と検討に時間をたっぷりとかけます。
考える余裕を持つには、集中せざるを得ない状況に身を置くことが大切です。
マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツは、1週間まるまる考えるためだけに使う時間を定期的に確保していることで知られています。
忙しさのピークにあった時も、ゲイツは年に2回ほど時間を作って、1週間仕事から離れました。
ひとりきりで大量の本や記事を読み、最新の技術について学び、これからのことに思いをはせたといいます。
たとえ短い時間であっても、忙しい日常から離れて、自分だけでいられる時間を確保しましょう。
2.十分な睡眠
優秀な人たちほど、睡眠は生産性の敵だと考えて、できる限り睡眠時間を削って多くの仕事をしようとします。
しかし、私たちの最大の資産は自分自身で、心と体の健康をないがしろにすると、価値を生み出すことができなくなってしまいます。
一流のバイオリニストは、よく練習するだけでなく、よく眠るということが明らかになっています。
彼らの平均睡眠時間は一日平均8.6時間で、昼寝も週に平均2.8時間とっているといいます。
睡眠が一流のパフォーマーの並外れた集中力を支えている、ということです。
また、脳は眠っている間に、膨大な情報の整理と再構築をおこなっているので、十分に睡眠をとることで、物事を明確に決断することができるようになるのです。
3.何を選ぶかという厳密な基準
重要なことを選択するためには、中途半端なイエスをやめて、「絶対にやりたい」か、それとも「やらない」かの二択にすることです。
そのためには、10段階評価で9以上の選択肢しか選ばないという「90点ルール」で考えることが役に立ちます。
明確で厳しい基準を持っていれば、7や8くらいの評価の中途半端な選択肢に悩まされることはなくなります。
非エッセンシャル思考の人はいつも、消極的な基準でものごとを選んでいます。
「誰かに頼まれたからやる」、あるいは「みんながやっているからやる」という基準です。
ソーシャルメディアで多くの人がつながっている現在、「みんながやっているからやる」という基準で決めていたら、あらゆるどうでもいいことに手を出すはめになってしまいます。
絶対にイエスだと言い切れないなら、それはすなわちノーである、というのがエッセンシャル思考の考え方です。
4.断固として上手に断る
不要な物事を抱え込まないためには、断固として上手に断る技術をもつべきです。
自分にとって本当に重要なこと以外に対して「ノー」と言うコツが3つあります。
それは、
・沈黙の時間を持つこと
・代わりとなる代替案を出すこと
・即答を避けて、予定を確認して折り返すと伝えること
断ることで、相手を失望させたくない、と思うかもしれませんが、うまく依頼を断ることは、「自分の時間を安売りしない」というプロフェッショナルとしての証明になります。
長期的に見れば、好印象を持たれるよりも、敬意を持たれる方がより大切なことなのです。
5.過去の損失を切り捨てる
チケットを買ってしまったから、というだけで、つまらない映画を最後まで見てしまうのは、サンクコスト、埋没費用、とよばれる心理的バイアスが理由です。
すでに払ったお金や時間が無駄になるのがもったいないからといって、損な取引を続けていると、ますますその損失は広がっていってしまいます。
人間は、すでに自分が所有しているものを高く見積もってしまう傾向がありますが、この罠から抜け出すためには、所有しているものを、持っていないと仮定して考えてみることです。
「もしこのチャンスを逃したらどうなるか?」と考えるかわりに、「もしこのチャンスが自分のところに来ていなかったら、手に入れるためにどれだけのコストを払うか?」と考えてみるのです。
そうすることで、冷静に価値を判断して、きっぱりと過去の損失を切り捨てることができるのです。
まとめ
と、いうことで今回は「エッセンシャル思考」をご紹介しました。
エッセンシャル思考は、「より少なく、しかしより良く」を追求する生き方です。
ときどき思い出したようにやるだけでは、エッセンシャル思考とは言えません。
「今、自分は正しいことに力を注いでいるか?」と絶えず問い続けるのがエッセンシャル思考の生き方です。
この解説を読んで興味を持った方は、ぜひ実際に読んでみてください。