少女七竈と七人の可愛そうな大人(桜庭一樹/角川グループパブリッシング)
童話っぽい空気の話しだと思った。
独特の文体やセリフで、ジオラマの中のような、ちょっと現実離れした世界が出来上がっている。タイトルからしても「白雪姫」を連想させるし、その舞台が旭川というのも、この物語の雰囲気に合っている気がする。
七竈の木、赤いマフラー、かんばせ。
世界を説明する単語の選び方が、とても好きだ。
この話しは、子供の頃に感じる、世の中の理不尽に対して湧き上がる嫌悪感と、それを解決する力を何ら持たない自分自身に対するどうしようもない憤りに満ちている。とても狭い世界の中で、異形の身として居ることの所在なさ。そして、自分の意思とは無関係の成長と旅立ち。その哀しさを、このように、柔らかくも美しい文章で表現出来るというのは、すごいことだと思う。
【名言】
何人かの乗客がわたしをみつけて、「川村、あの、旭川第二高校の・・」「あいかわらず・・」「ちょっと大人っぽくなったかな」などとささやきあった。顔に。顔に。顔に視線が突きささる。毒をぬった針のように。やめろ。見るな。勝手にわたしを見て見て消費するでない。わたしはうつむいて長い黒髪で顔をかくすようにして、つり革をぎゅうと握りしめた。(p.36)
「美しい人は、都会に向いている、と、そんな気がね。つまり変わっている生きものは。頭がよすぎるものも、悪すぎるものも。慧眼がありすぎるものも、愚かすぎるものも。性質が異様で共同体には向かない生まれのものは、ぜんぶ、ぜんぶ、都会にまぎれてしまえばいい、と思っていてね。ははは」(p.108)
わたしはああっ、とつぶやく。せまいせまいせかい。ちいさな町。人と人との距離のあまりの短さ、かかわりごとの多さにおもわず息をのみ、絶句する。(p.120)
「七竈の木って言うのはねぇ。とても燃えにくくて、七回、竈に入れないと炭にならないのだって。ねぇ、人間にだって、それぐらい念を入れて燃やさなければ、あきらめきれない気持ちはあるわよねぇ。だけど七回燃やした七竈の炭は、とても上質なものになるそうだから。だからねぇ、七竈。わたしは、あのころ、七竈の炭になろうと思ったのよ。」(p.221)
「はは、気にするな。旅は長い。これから君、いろんなものを得て、失い、大人になって、そうしていつか娘を産んだら、こんどは自分が、女としてのすべてを裁かれる番だ。はは、だから、気にするな。」(p.248)