虹ヶ原ホログラフ


虹ヶ原ホログラフ(浅野いにお/太田出版)

登場人物すべてが、現在と10年前の両方において、何らかの形で必ず複数の登場人物と密接に繋がりあっているという、複雑怪奇な相関図を描いている作品。一回読んだだけでは、その全貌を理解出来ない。
数独のパズルのように、縦・横・ナナメ、どこの角度から見ても筋道が出来上がるような立体的な構造になっていて、それが、極限まで洗練された腕時計のように、ギュッと凝縮されている。
絵はすごくキレイなのだけれど、登場人物の顔がイマイチ好みではないというところで、ちょっと没入度が下がった。
この作品では「蝶」が重要なモチーフになっている。十年もの月日にわたって緊密に交差する出来事は、自分の見ている夢だったのか、それとも蝶が自分の夢を見ているのか。
これだけ入り組んだ設定であるにもかかわらず、長々と続いていかずに、一巻でピシッとまとまっているところが良かった。
色々な伏線をその中に詰め込みまくっているので、やたらと情報量の多い一冊になっている。5冊分くらいの情報が1冊の中に入っているような感じなので、5回読み返すくらいが丁度いいかもしれない。
何回か繰り返して読みながら、そうか、ここのセリフはこういう意味だったのか、という新しい発見を積み重ねるというのが、この作品の味わい方ではないかと思う。
【名言】
 
僕がこの学校に転校してきてそろそろ2ヶ月。
僕は僕ができると思っていた以上に小学生していた。
僕は少し、大人に近づいたのかもしれない。
マンガの回し読みとか、5時間目の体育の話しとか、
当たり障りなくこなして、みんなが笑う時僕も笑う。
なんだ。生きるって簡単じゃないか。(p.69)
・・この十何年かの出来事が昔の私が見ている夢だったらどんなに幸せだろう。
でもきっとそんな事はない。(p.144)