1位 MASTERキートン
「人生を変えた本」を挙げるとしたら、自分の場合はまず第一にこの作品を選ぶだろう。
「マスターキートン」によって与えられた影響は2つあって、一つには、ヨーロッパの文化についての知識と憧れを植え付けてくれたこと。そして、もう一つは、考古学者という職業と、歴史という学問についての興味をおおいにかきたてられたことだった。
物語の舞台はヨーロッパを中心に世界中に場所を移していて、プロットがとても緻密であることと、風景の描写が正確であることで、色々な街を旅しているような気分になる。
日本人とイギリス人のハーフである、平賀=キートン=太一の生活は、インディージョーンズほど波乱万丈なものではなく、もっと平凡だ。
ただ、そういう彼が経験する冒険であるゆえに、日常の中にも、好奇心さえあれば、魅力に満ちた世界への扉は常に開かれているのだということに、大きな希望を感じたのだった。
2位 火の鳥
特にいいのは、「未来編」と「鳳凰編」。
3位 ジョジョの奇妙な冒険
4位 BLUE GIANT
5位 TO-Y
6位 よつばと!
7位 天然コケッコー
くらもちふさこの絵は本当に上手い。
絵だけでなく、コマ割りとか構図に加えて、微妙な心理描写に至るまで、余人の追随を許さない圧倒的なセンスを感じる。
連載中の「駅から5分」を読んでいても思うことだけれど、既に大ベテランの域にいるマンガ家であるにもかかわらず、感覚が古びていないということに驚かされる。
既製のパターンをどんどんと崩していきながら、それでいて完成度が高いという離れ業をやってのける。
島根県あたりの田舎を舞台にした、日常生活の物語なのだけれど、奇抜な設定をまったく用いずに、ここまで面白く表現できるというのは、やっぱり相当スゴいことだ。
それは、登場人物一人一人にはっきりとした個性とリアリティーがあって、それらの人々がそれぞれの場面で見せるであろう言動をきっちりと描いているからなのだろう。だからこそ、ものすごく共感出来るし、自分自身がそこにいるような臨場感で、物語の世界に入っていくことが出来る。
ずっと心に残る作品というのは、こういうものなのだと思う。
8位 海街diary
中心人物が毎回変わっていく、一話完結型のオムニバスで、その構成がまず素晴らしい。それぞれの話しは、ゆるやかに関連を持ちつつも、独立した話しになっている。くらもちふさこの「駅から5分」ともよく似ていて、こういう構成はとても好みだ。
鎌倉を舞台にしていて、稲村ヶ崎や佐助稲荷などの名所がちらほらと登場し、花火や紫陽花やお祭りのような、季節の風物詩と共に描かれるのが、風情があっていい。
吉田秋生の描くマンガは、どれも文学性が高いものばかりだけれど、この作品は、ずば抜けて心理描写が素晴らしいと思う。ちょっとした表情の変化を見せるような場面では、特に描き方が上手い。
「将来の古典になることが約束された作品」と、帯のコピーに書いてあったけれど、これはたしかに、それを多くの人に確信させるだけのクオリティーを持つ作品だと思う。
9位 私・空・あなた・私
10位 少女ファイト
キャラクターの作り込みが、一人一人について深く掘り下げられていて、一冊一冊の密度がすごく濃い。
その熱量が、本当に半端なものではなくて、人物の描き込みだけではなく、コミックのカバーを外したところにあるオマケだとか、あとがきの隅々まで気が行き届いている感じで、作者の、この作品への愛着のほどがよく伝わってくる。前作「G戦場ヘヴンズドア」の登場人物が微妙にあらわれるところも、面白い。
バレーボールを題材に描いても、ただのスポ根マンガでは終わらない、日本橋ヨヲコ氏独特のテイストと、切り絵のようにコントラストの強い絵は、人によって好みは分かれるところだと思うけれど、ハマる場合にはものすごくハマってしまう強烈な個性がある作品だと思う。
11位 駅から5分
各話が独立したオムニバス形式なのだけれど、それぞれの話しで完結していながら、お互いの話しが有機的に結合している。こういう構成は大好きだ。
舞台が学校ではなく、一つの小さな町全体というところが面白い。クラスや部活の中に閉じた世界ではないから、老若男女様々な種類の人が関わり合って、ドラマが生まれていく。この立体的なクロス・オーバーは、昔に見た「ツインピークス」を思い出させる。
ある一つの場面に5人の人が居合わせたとすれば、そこには当然、5通りの物語がある。同じ出来事でも、誰の視点から見るかによって、その解釈は大きく変わってくる。そして、同じ人物でも、関わり合う相手との関係によって、その性質は変化する。
この、出会いによって生まれる多様性と偶発性こそが日々の面白さであって、この作品は、その面白さを花染町という小世界の中に凝縮して、見事に表現していると思う。
こういう、一話完結型の作品というのは、巻が進んでも面白さは変わらないか、だんだん衰えていくことが多いのだけれど、この「駅から5分」は、回を重ねるごとに倍々ゲームのようにどんどんと面白さを増していく。巻末についている、人物相関図がどんどん埋まっていくのが楽しい。
12位 UNTITLED
13位 めぞん一刻
14位 BANANA FISH
15位 機動戦士ガンダム THE ORIGIN
16位 不思議な少年
この物語は、スケールがでかい。そのスケールの大きさは「火の鳥」に匹敵するほどで、これだけの話しを描くとなると、並大抵の世界観では、どこかで破綻して失速してしまうものだと思うのだけれど、この作品の出来は素晴らしい。
話しの舞台や年代は多岐にわたっていて、それぞれが1話か2話程度で完結する、短編集のような形になっている。
永遠の命を持つところや、どの時代のどの場所にも自由に現れるところも、火の鳥に似ているけれど、人間の少年の姿をしているために、神のような雰囲気はない。
不思議な力をいくつか持ってはいても、基本的には傍観者としてのスタンスを貫いていて、人間の歴史に不必要に干渉することもない。
その点、主人公であるこの少年はとてもさっぱりとしているのだけれど、そのために余計に、人の宿命や業が、客観的な視点で描かれていて、その一歩ひいたクールさがこの作品の大きな特徴になっている。
隔月刊の別冊モーニングに連載されているので、刊行ペースは1年に1冊ほど。もっと早く続きが読みたいと思ってしまうけれど、週刊連載ペースでこれだけのクオリティを保つことは難しいだろうから、拙速で内容が粗くなってしまうよりも、今のペースでも、じっくりと長く続けていってほしいと思う作品だ。
17位 ヴィンランド・サガ
18位 コウノドリ
19位 本気のしるし
20位 おやすみプンプン
この、「おやすみプンプン」で、主人公とその家族のみを、極端にデフォルメした線画で描いているというのは、かなり挑戦的な遊びだと思ったけれど、単に前衛的な表現という以上の効果がこの線画にはあるということが、読み進めるうちにわかってきた。
もともと、マンガというのは、映画やアニメーションと比べると、動きや音声がない分、読み手の感情移入がしやすいメディアといえる。
そこに更に、キャラクターを戯画化することで、余分な情報を極限まで削ぎ落として、「汗」や「動線」のようなマンガ特有の技法だけを使うことで、登場人物の気持ちの表現を「記号」のレベルにまでシンプルにしてしまったこの作品は、これ以上ないぐらいに、読み手に感情移入の幅を持たせているのだと思う。
更にスゴいのは、本当に重要なシーンだけは、戯画から離れて写実的な描写に変えて描いているところで、そのことで、何がこの劇中のフィクションの中で、本当に存在感がある物なのかをはっきりと示そうとしているという事だ。
この作品が感動的なのは、単に技巧的な面だけで前衛を気取っているのではなく、作者が、本気で自分自身をさらけ出して、人間の精神の迷宮を表現しようとしている気魄が伝わってくるからだ。
それには、才能に加えて、尋常ではない覚悟が必要なんだろうと思う。
こういう作品を生み出しているということに、敬意を表したい。
21位 AKIRA
22位 夜回り先生
「夜回り先生」の話しは、土田世紀の絵にとてもよくマッチしている。
「夜回り先生」をマンガにするには、土田世紀以外の筆者はあり得ないと思うぐらいのハマり方だ。小説も良かったけれど、この作品は、マンガ化して更に素晴らしくなったと思う。
この、夜回り先生こと水谷さんの活動がスゴいと思うのは、自分の活動を組織化することをせず、決して群れることをせずに、1対1で向き合うことだ。それは、大人が二人以上集まると、それだけで子供にとっては圧力になり、心を開くことがなくなるからだという。
サイトを見ていて知ったのだけれど、水谷さんは「リンパ腫」という病気にかかっていて、あまり長くない体であるらしい。
それでありながら、今も変わらず、毎日夜回りやメールの対応や講演活動を、ほとんど睡眠をとらずに続けているという。
実在の人物の活動をマンガや物語にするにあたっては、構成の都合などで、多少の脚色が入ることもあるだろうし、どこまでがフィクションで、どこまでがノンフィクションなのかは、わからない。
だけれど、そういう細かい部分はどうでもよく、ただ、一人の信念を持った人が、自分の体と時間を極限まで酷使して、多くの子供に向き合い続けているということは事実で、その気迫と覚悟がこの作品からも伝わってくる。
23位 寄生獣
24位 宮本から君へ
連載当時、高校生の頃だったと思うけれど時々は読んでいて、熱っくるしいし、読みにくいし、疲れるマンガだなあと思っていた。今、あらためて読んでみると、これはスゴい。
自分が思う「カッコいい」の基準が、当時と今とで変わっているからだろうと思う。
というよりも、その頃は、人生の陰影なんてことをこれっぽっちも考えてなかったからかも知れない。
キャラクターの一人一人に、ものすごく存在感がある。
現実にいそうというリアリティーとは違うのだけれど、きっちりとその人物の背後にある歴史を感じさせる厚みがある。
こんなにも、読んでいて先が気になるマンガは久しぶりだった。
新装版では、最終巻の最後に、「その後の宮本」を描いた短編も収録されている。
これも、最高にいい。
25位 ベルセルク
26位 あなたのことはそれほど
27位 お~い!竜馬
28位 青き炎
29位 スティール・ボール・ラン
30位 エイジ
31位 僕の小規模な生活
32位 すごいよ!!マサルさん
33位 童夢
圧倒的な画力だと思った。
コンクリートがひしゃげた状態や、人間が浮遊した時など、現実には目にする機会がないような場面がたくさんあるにもかかわらず、ここまで現実感をもって迫ってくるというのは、ただただ、このずば抜けた描写力があってこそのことだろう。
この作品の場合、もしストーリーがなく、無声だったとしてもその面白さが大きく失われることはない。
巨大建造物の壊れっぷりや、子供みたいな老人や超能力が登場したりするところは「AKIRA」とよく雰囲気が似ているけれど、この作品が素晴らしいのは、舞台になっている、集合住宅としての「団地」が持つ魅力と妖しさが存分に表現されているところだ。
物語は、ある高層団地を舞台にして、そこから離れることがない。その巨大な団地は世界の縮図のようなもので、同じ形をした建物の連続の中に、同じ形をした部屋が密集していて、ごく小さなスペースの内部に無数の人々の生活が圧縮されている。
特に、夜の団地の美しさは圧巻で、無機質な団地の姿をペンによってここまで美しく描くことが出来るのは、大友克洋氏以外にはあり得ないだろうと思う。
34位 宇宙兄弟
宇宙飛行士という特殊な職業をテーマにしていながら、奇抜な設定を用いずに、リアリティのある職業の一つとして描いているというのがいい。
ストーリー重視の作品で、話しの中に山場がいくつもあって、とにかく先が気になってしまう。そのまま脚本として映画化出来てしまいそうなくらいに、よく作りこまれた物語だと思う。
作り込み方が丁寧な感じで、かなり笑えるし、泣ける。
近未来という設定なこともあり、どこまでが実際にJAXAやNASAの宇宙飛行士の選抜や訓練でおこなわれていることなのかは、よくわからないけれど、未知の世界が舞台になっているというのは、それだけで面白い。
表紙のカバーに施されている、キラキラしたラメの細工が好き。
35位 おいしい関係
「Real Clothes」を読んだ時も感心したけれど、槇村さとるという人は、働く女性の物語を描くのがとても上手い。
レストランでの仕事を通じて、様々な人々と接しながら、主人公が成長していく姿を、ものすごく丁寧に描いている。
絵も好きだし、何といってもセリフが素晴らしい。それぞれのキャラクターの個性と哲学がにじみ出ている言葉ばかりで、こういう作品は、読んでいて本当に面白い。
何度も繰り返して読み直したいと思う、殿堂入りのタイトルだ。
36位 おおきく振りかぶって
今までに見たことがないぐらい、心理描写に重点を置いた本。
物語自体のドラマ性はそれほど強く押し出さずに、キャラクターや舞台設定をかなり細かく作り上げていて、野球というゲームを心理面から戦略的に分析し野球マンガ。
37位 真説ザ・ワールド・イズ・マイン
これほどに壮大なスケールの物語を作れる人間は、新井英樹以外にはあり得ないだろう。最初から最後まで、すべてが圧倒的なテンションと勢いのまま、畳み掛けるように怒濤の展開で進んでゆく。
人間が持つ倫理の枠を超えた、原始の感覚を持つモンの破壊的な行動は、荒ぶる神スサノオのようで、この世界観の無軌道ぶりと荒唐無稽さは、神話に匹敵するスケール感を持っている。
それと対比するように、脆く常識的な存在であったトシの表情と目つきが、人を殺し慣れていくにつれて、どんどん変わっていく様子がすごかった。
常識や定石を超越しているので、決して推薦図書になったりすることはないだろうし、マンガランキングのようなものとも無縁の作品だろうけれども、だからこそ生み出される、ものすごいオリジナリティーがある。
人物の絵が荒くて汚いという難点はあるものの、人物のキャラクター設定の奥行きということになると、執拗なまでに緻密に、細部にいたるまで作りこまれている。
手塚治虫とはまったく別の方法論で、何億年というスパンでの人類の業や輪廻までを扱い、国際政治や宗教をも包括する巨大なテーマを描こうとした、途方も無いチャレンジの結果出来上がった作品だと思う。
38位 スラムダンク
39位 稲中卓球部
40位 頭文字D
41位 キン肉マン
42位 リバーズ・エッジ
43位 ROOKIES
生徒を更生させる熱血教師や、甲子園を目指す野球部という設定は、もう使い古されているほどにありがちなパターンだけれど、そのベタさにもかかわらず、そんなものは問題にならないぐらいに感動させられる。
「スラムダンク」が途中からバスケットの試合シーンばっかりになってしまったように、スポーツマンガは途中から天下一武道会的な単調パターンに入ってしまうことが多いけれど、この「ROOKIES」は、野球の場面と、学校生活の場面両方がバランス良く混ざっているのがいい。
登場人物の個性がはっきりあって、その組み合わせから生まれる化学反応のようなものが、甲子園の選抜大会に参加してからよりも、その前の、ボロボロの状態から野球部が出来上がっていくところや、他校との練習試合のあたりまでが最高に面白い。巻数でいうと12巻あたりまで。
こういうスポーツマンガというのは、どこで締めくくるかという、終わり方が一番重要なのだと思う。
この作品の場合は、もっと色々な終わり方が考えられただろうけれども、それでも、きちんと明確な区切りをつけたという点で、美しいエンディングだった。
44位 ママはテンパリスト
45位 ゴルゴ13
46位 喧嘩商売
47位 僕たちがやりました
48位 サンクチュアリ
49位 C
50位 究極超人あ~る
51位 I(アイ)
52位 ぎゅわんぶらあ自己中心派
53位 聖闘士星矢
54位 雲出づるところ
55位 バタアシ金魚
56位 SHOP自分
かなりいきあたりばったりに、気まぐれのままにダラダラと書き続けているような作品で、ストーリー性はほとんどないし、展開もめちゃくちゃだけれども、それにもかかわらずやたらと感動してしまう、不思議なマンガ。
突然打ち切りになって6巻までで終わったけれど、もっと続いて欲しい作品だった。
主人公のチョクが、会社から離れて「SHOP自分」という謎のレンタルスペースで古着屋を始める話しで、脱サラとか自分探しとか、そういう甘酸っぱい要素が満載されている。
柳沢きみおの最高傑作と思う作品にもかかわらず、しばらく絶版になっていたのだけれど、Kindle版で復活して自由に読めるようになった。
57位 鋼の錬金術師
絵は柔らかくてほのぼのしているけれど、その内容は、絵柄からは想像がつかないぐらい本格的にハードでシリアス。
近世ヨーロッパのファンタジーっぽい雰囲気ではあるものの、舞台となっているアメストリスという国にはキリスト教は存在せず、魔法の代わりに錬金術が技術として伝えられている。
「等価交換」を基本にした錬金術の法則や、国家・軍隊の組織形態など、細かいところまで世界観がきっちりと作りこまれていて、かなりリアリティーがある。
敵方である人造人間(ホムンクルス)たちが、「七つの大罪」を象徴しているというダークな設定や、「こんなのどうやって倒すんだ」と思わせる圧倒的な能力と強さを持っているところがシビれる。
それに立ち向かう人間側は、相対的に見て非力なのだけれど、それを補うように、努力とかチームワークとか根性をもって必死に喰らいついていくところに面白さがあるのだと思う。
長編にもかかわらず、次々と新キャラクターが登場してどんどん話しがふくらんでいく展開ではなく、いったん現れた人物は途中で簡単に消えたりせずに、そのままずっと話に関わり続けるという、一つ一つのキャラを大事にしている感じもまたいい。
ところどころ、意表を衝く演出はあるけれども、基本は最初から最後まで綿密なプロットに基づいて構成された、期待をまったく裏切らない王道を征く、読み応えのある作品。
巻末のおまけだけでなく、表紙カバーの裏までしっかりと描き込まれていて、とにかくサービス精神のかたまりのようなマンガだった。
58位 課長 島耕作
「部長」「ヤング」などの島耕作シリーズを読んだ後に、あらためて「課長島耕作」シリーズを読み返してみると、1巻だけはまだキャラクターが定着していなかったためか、ちょっと違和感があるものの、2巻以降は、シリーズを通してほとんどブレがない。
20年以上にわたる長編マンガなのに、絵柄もキャラクターも、これだけ安定しているというのはスゴイことだと思う。
この話しに出てくる男たちは、みんな、家庭という面では恵まれていない人ばかりだ。
仕事の面で優秀で出世をしているほど、家庭の面では不遇の状態で、愛人を囲ったり、離婚をしたり、ことごとく上手くいっていない。
島耕作にしても、家庭の話しになると、まったく冴えなくなってしまうし、一人娘にたいしても随分寂しい思いばかりをさせている。
この、すべてにおいて完璧というわけではない、仕事に偏ったキャラクターというところも、魅力の一つなのかもしれない。
これより後の「部長」以降のシリーズになると、舞台が国際的になって、だいぶ現場から遠ざかった場面が多くなってしまうので、やっぱり、この「課長」時代の話しのほうが活気があって、色々な出来事がめまぐるしく起こるし、面白いような気がする。
中盤の7巻あたりが、島耕作だけではなく、その周囲の色々な人々の、様々な形の人間模様が描かれていて、「課長島耕作」シリーズで一番面白い部分だと思う。
59位 ハッピーマニア
60位 花に染む
また新たに、くらもちふさこの挑戦的な作品が登場した。
タイトルは「駅から5分」の舞台となっている「花染町」から来ていて、位置づけ的には「駅から5分」のアナザーストーリーという作品であるらしい。
普通は、こういうスピンオフ的な物語は、読み切りの外伝という形で発表をするんじゃないかと思うのだけれど、独立した別タイトルで、しかも本編と同時に連載をしてしまうという斬新さ。
「駅から5分」の世界だけでも、とても一度では把握し切れないだけの人間関係と時系列の複雑な相関があったというのに、そこに、さらに別のもうひとつの世界をぶつけてくるというのは、とんでもないことを思いつくものだと思う。
内容的にも、それぞれの世界ではかなりテイストが異なっている。「駅から5分」の世界での多面性というのは、複数の人物からの視点の違いに主眼を置いたものであったけれども、この「花に染む」では、一人の人物の深層に潜る形で、物事の裏側に隠れた、目には見えない世界を描こうとしている。
新しい表現をひたすらに追求する、くらもちふさこの挑戦は、いったいどこまでの高みを目指していくのだろうか。
61位 ちひろ
62位 花の慶次
63位 あしたのジョー
64位 ボーイズ・オン・ザ・ラン
65位 キングダム
66位 ファイブスター物語
67位 ONE PIECE
68位 咲
69位 自虐の詩
最初の部分は普通の4コママンガだったけれど、回を重ねて、それぞれの登場人物のエピソードが積み重なっていくごとに、どんどんそのキャラクターの厚みが増していって、その背後に存在する人生を感じさせるまでに成長していくのがわかる。
4コママンガなのに、ストーリーマンガ並みに、物語がどんどんと進化していくというのは、かなり衝撃的だった。
しかも、追加されていくのは、新しいエピソードではなく昔のエピソードで、成長するのはキャラクター自身ではなく読者の認識のほうだという、ものすごい倒置。
キャラクターは何も変わっていない。ただ、その人物が歩んできた歴史が明らかになっていくのみ。
この感覚は、初対面の印象では表面的な部分しかわからなかったことが、つきあいを重ねるごとに段々と本質的な部分が見えてくるという、現実の人間関係に近いものがある。
歴史が明かされる過程で、まったく不規則に、話しが現在と過去とを行ったり来たりするのだけれど、それが全然気にならない。
それぞれの家庭のことというのは、そこにいる当人にしかわからないことがある。周りから見て、どれだけ幸せに見えても、不幸せに見えても、実際のところどうなのかということは、その家庭の中にいる当事者にしかわからない。当事者にさえ、本当のところは永久にわからないかも知れない。
この、単純には割り切れない、家族というものの不思議さを、ユーモアを交えながら表現したこのマンガは、文学を遥かに越えた、どのようなジャンルにもあてはまらない、不朽の作品だと思う。
70位 喰う寝るふたり住むふたり
71位 孤高の人
72位 銀と金
73位 蒼天航路
74位 藤子・F・不二雄SF短編集PERFECT版
これら、一連の藤子・F・不二雄SF短編作が出版された1970年前後の頃、その売れ行きはさっぱりだったそうだ。
「ドラえもん」は売れ行きが伸びているのに、時間をかけてリサーチして作っているSFはまるで売れなかったという。
しかし、名作は永い年月の間にもしっかりと残るもので、今こうして、全112話のSF短編は装丁を変えて新たに世に出され、読者に感動を与えている。
物語の作り手からすると、これ以上の喜びはないのではないかと思う。
特に名作だと思うのは、1巻の「ミノタウロスの皿」「劇画オバQ」「気楽に殺ろうよ」、4巻の「カンビュセスの籤」「未来ドロボウ」。
いずれの作品も、考えもつかないような盲点を突いた価値観の逆転を示していて、しかも風刺がきいている。
ほんの数十ページの短編だけれども、何千ページもの文学作品にも匹敵する大作だと思う。
その他の作品にも駄作というようなものはなく、純粋にSFとしてとてもレベルが高い。
本来、「ドラえもん」のような作品よりも、こういう純粋なSFの分野のほうが、藤子・F・不二雄の本領がより存分に発揮されるのだろうという感じがする。
75位 ウルトラヘブン
世の中にはとんでもない天才がいるものだと思った。
この本が描いているのは、薬事法改正でドラッグの規制が緩和されて、ドラッグが煙草のような嗜好品として日常的に扱われる世界。
客の好みに合わせてドラッグのカクテルを作って出すポンプバーがあったり、衛生局の査察官による取り締まりがあったり、そういう近未来描写がまず、すごい想像力だ。
なによりも、ドラッグでトリップした時の表現がものすごい。時間の動きがコマ送りみたいになったり、自分の手が壁にくっついて細胞分裂をしていったり、遠くの物と近くの物の位置が逆転したり。
これだけは、とても文章による表現では到底追いつけない。読んでいて怖ろしくなるほどの、とんでもないリアリティーだった。
ドラッグの作用というのは、端的にいえば、脳内の体内時計をズラすものであるらしい。
パソコンでいえばCPUのクロックのようなもので、人間はそれに従って脳が情報処理をしているから、秩序と意味を持って現実を把握出来る。
その時計の周期がズレると、時間も空間も無秩序に自分の感覚の中に流れ込んでくることになる。
しかし、考えてみれば、時間と空間というものを秩序立てて理解出来るということのほうが特別なことで、世の中のありのままの姿というのは、この作品に表れているような混沌状態にあるのではないかと思った。
擬似的にせよ、その混沌を、あたかも秩序があるかのように構築する「脳」というのは人間の理解を遠く超えたブラックボックスとしか言いようがない。
世の中には、その時々に応じて、その時代の人間が共通に持つコモンセンスがある。
人類は、地動説や進化論を知る前と後とでは、世界観がまったく違う。
そして、センセーショナルな発見をトリガーにして世界観が変わるのと歩調をあわせて、人の意識も進化してきたのだろうと思う。
この作品は、人間が持つべき常識を、数十年は先取りしているんではないだろうか。これほどの衝撃を受けた作品は、久しぶりだった。
76位 働きマン
77位 3月のライオン
78位 月下の棋士
79位 キャプテン
80位 ハイスクール奇面組
81位 男の自画像
怪我が原因で現役を引退した元プロ野球選手が、その野球への熱意を忘れることが出来ず、30代半ばにして、再度のプロ復帰を目指すという、地味だけれども熱い話し。
そこらのスポーツマンガと違うのは、普通、若さや青春をストレート描き、それが当たり前の世界になっているところを、それとは逆に、失われた時間という逆境を克服する姿を描くことで、若さのかけがえのなさを表現しているということだ。
柳沢きみお氏の作品は、どれも、表舞台の華やかな部分ではなく、必ず、その裏側の見えない場所にいる、目立たないけれども精一杯生きているという、アウトローな人々を主人公にしているところが好きだ。
「男の自画像」というタイトルもシブい。男の生き様ということについて考えさせられる名作だった。
82位 B.B.JOKER
83位 やれたかも委員会
84位 ナニワ金融道
85位 センゴク外伝桶狭間戦記
「桶狭間の戦い」という、歴史に残る奇襲に焦点を絞って、それがどのような経過で起こった出来事なのかということを、綿密な史料の分析と大胆な仮説によって描いた、かなり密度の濃い作品。
斬新なのは、織田信長以上に、今川義元についての描きこみや設定がやたらと細かいことで、幼少期からの成長を追って、いかにしてその人格形成が為されたかというところを起点に、ものすごく根本のところから「桶狭間の戦い」一点を問い直しているということだ。
この作品では、今川義元が、戦国の守護大名の一つの完成型として、いかに優れた資質と統治能力を持っていたかという説明に、まず重点が置かれている。
そこに、また別の形の理想型である織田信長という才能がぶつかったことによって生まれる、ドラマチックな龍虎対決の構図にしているのが面白い。
さらに、この時期に起こった小氷河期による飢饉や、「米」から「銭」への価値観の変化など、時代的な背景も踏まえながら、この戦いの位置づけも検証されていて、戦国時代の構造をわかりやすく理解出来る、硬派な作品だった。
86位 伝染るんです。
87位 バガボンド
88位 虹ヶ原ホログラフ
登場人物すべてが、現在と10年前の両方において、何らかの形で必ず複数の登場人物と密接に繋がりあっているという、複雑怪奇な相関図を描いている作品。
一回読んだだけでは、その全貌を理解出来ない。
数独のパズルのように、縦・横・ナナメ、どこの角度から見ても筋道が出来上がるような立体的な構造になっていて、それが、極限まで洗練された腕時計のように、ギュッと凝縮されている。
この作品では「蝶」が重要なモチーフになっている。
十年もの月日にわたって緊密に交差する出来事は、自分の見ている夢だったのか、それとも蝶が自分の夢を見ているのか。
これだけ入り組んだ設定であるにもかかわらず、長々と続いていかずに、一巻でピシッとまとまっているところが良かった。
色々な伏線をその中に詰め込みまくっているので、やたらと情報量の多い一冊になっている。
5冊分くらいの情報が1冊の中に入っているような感じなので、5回読み返すくらいが丁度いいかもしれない。
何回か繰り返して読みながら、そうか、ここのセリフはこういう意味だったのか、という新しい発見を積み重ねるというのが、この作品の味わい方ではないかと思う。
89位 七夕の国
90位 彼方のアストラ
91位 BLACK LAGOON
92位 ヘルタースケルター
美しさというのは、尊い価値を持っている。
しかし、イデアとしての美しさではなく、外見の美しさのみを追い求めた場合、それはとても儚いもので、それに固執しようとした人間には相応の悲劇が待ち受けている。
この作品は、美しさと若さという妄想に取り付かれたアイドル(偶像)と、その美を取り込もうとした人々、その美に取り込まれてしまった人々、という魍魎が巣食う世界を描いた物語だ。主人公のりりこは、ひたすらタフに、自分のアイデンティティーすらも棄てて、終わることのない整形の無間地獄に堕ちていく。
美しさと若さは、古今東西、あらゆる女性の夢であったけれども、所詮、夢は夢のままあった。しかし、大量消費社会では、欲望を満たすためのあらゆるものは売買の対象となる。「美」もまた人が持つ有限の資源の一つであり、定められた割り当てというものがあるけれども、それも、限りない欲望を持つ人々にとっては、トレード可能な品物になり得てしまう。
必要以上の美を今、要求した場合、それは自分自身の未来を担保にした借入れということになり、それでも間に合わない場合は、ついに魂と引き換えということになる。
何かを得た代償は、必ず何らかの形で対価を支払わなければいけないという点で、それは非常にフェアな世界ではないかと思う。
岡崎京子という人の天才は、僕が考える「良く出来たマンガ」というラインを軽く飛び越えて、その遥か先まで一気に到達してしまっている。
この作品は、岡崎京子氏が事故に遭って執筆を停止する直前に描かれたもので、そのために、通常であれば単行本化にあたって大幅に加筆することを常とする筆者の意向は反映されなかった。
もし、更に手が加えられていたならば、更にクオリティーは高くなったのかもしれないけれど、それを嘆くよりも、これほどの作品が完成して世に残ったことを奇跡と思いたい。
93位 ドラゴンヘッド
94位 7SEEDS
95位 同じ月を見ている
96位 ハチミツとクローバー
思いっきり青春を感じさせる、楽しさやツラさや切なさが満載な、美大生の日常生活を描いた、不朽の作品。
20歳前後の感受性豊かな時代を通過した誰もが経験したであろう、普遍的な感情や葛藤が、思いっきり詰め込まれている。
大きな主題となっているのは、それぞれに個性豊かな登場人物の間で複雑に絡み合う、(主に一歩通行の)恋愛模様なのだけれど、それとは別の軸として、「芸術表現とは」「自分らしさとは」といったような哲学的なテーマも、常に伏流にある。
絵柄がかわいく、文章が詩的であるために、パッと見の印象はかなりソフトだけれど、実際には、結構ハードで重い内容が扱われていたりする。
それでも、相当にノリを軽くしているので、重苦しさは感じない。この両極を見事に配合しているところが、このマンガのスゴさだと思う。
あと、特筆すべきは、人称(視点)が多いということで、「セリフ(口に出した言葉)+ナレーション(心の中の言葉)」の組み合わせによって異なる視点からの感情を表現したり、相矛盾する気持ちの葛藤を表現する、というのは少女マンガではよく使われる技法だけれども、「ハチミツとクローバー」では、ここにさらに、もう一種類別のナレーションがクロスオーバーするという離れ業がよく現れる。
それだけ、心理描写に力が入っているために、登場人物それぞれの細かい気持ちの動きがわかり、全員に必ず愛着が湧くようになっているのだろうと思う。
コマの隅や巻末のおまけマンガで存分に発揮される、遊び心のセンスも好き。
97位 人間失格
名作小説をマンガ化したものは、たいがい、原作のイメージを超えることなく、駄作に終わってしまうことが多いと思うのだけれど、この「人間失格」は、原作の魅力を損なうことなくリライトされていると思う。
原作そのままを作品化しているわけではなく、設定は現代になって、もし、主人公の葉蔵が今の世に生きていたら、どういう人生を送ることになっていたか、という変換がされており、これがとても上手く出来ている。
小説の中にあった、上野桜木町の屋敷は六本木ヒルズに舞台を移し、カフェの女給はキャバクラ嬢に替わり、時代設定は大幅に変わっているにもかかわらず、見事なまでに原作の重要なポイントはそのまま引き継がれて、物語の中に生きている。
もとの「人間失格」から大きなインスピレーションを得ながら、それを増幅させて、原作の魅力を再確認させることに成功した、稀有な作品だと思う。
98位 青少年のための江口寿史入門
この本は、過去に発表された短編の中でも良いものを集めた、作者自身の自選によるベスト本という位置づけになっている。どれも、天才的なセンスを感じさせる作品ばかりで、かなり面白い。
江口寿史氏のマンガは、連載ものの場合、回が進むにつれてだんだん粗くなって、内容が薄くなってくることが多いので、面白さの本領が本当に発揮されるのは、短編という形式なのだろうと思う。
特に、「岡本綾」という短編は、この本が初出の作品で、最高に良かった。
老人から始まって、時間とともにだんだんと若返っていくという設定は、映画「ベンジャミン・バトン」と同じだけれど、数ページの話しでありながらも、こちらのほうが深い余韻を残した。
タイトルの通り、江口寿史氏の作品をまだ読んだことがないという場合、この短編集から読み始めるのが、一番入りやすいのではないかと思う。
99位 PLUTO
この作品で特に好きなのは、未来都市のデザインだった。世界各地の建造物や都市のデザインが、惚れ惚れとするぐらいに美しい。
国際機関や、モスクや、空港などは、本当に近未来の街に存在しそうなリアリティがあるし、話しの中に登場する車やインテリアの造型も、そのまま製品化出来そうなぐらいの完成度だ。
「アトム」の名前がタイトルにも出ず、しかも登場回数的にもそんなに多くないというところも好みだった。主人公は彼だけではない。
この物語は、一人のヒーローによって世界が救われる個人戦の話しではなく、様々な立場や能力を持つ人たち(ロボットたち)が、いかにして調和していくかという、団体戦の話しなのだ。
余計な伏線を張ったり、未消化の謎が残ったりということもなく、冗長にならずに、きっちりとまとめられているという点も、とても素晴らしいと思った。
それぞれの巻の終わり方まで、計算され尽くしているように思える。大作映画をしのぐ感動をペンによって作り上げた、この偉業を讃えたい。
100位 天
このマンガは麻雀を題材とはしているけれど、麻雀マンガというよりは、それを超えた人生論を主要テーマとしたマンガといっていい。
主人公は一応、「天」ということになっているが、影の主役は、圧倒的な存在感を持っているサブキャラクターである「赤木」という構造になっている。「スラムダンク」でいう、桜木と流川のポジションに近い。
赤木は、物語が進むにつれ、どんどん重要性を増していき、最後には完全に主役といっていい立場になる。
途中から、もはや麻雀はまったく物語と関係なくなり、形而上的な対話へとステージが変化する。ここからが、この作品はものすごく面白い。
のちに、赤木を名実共に主人公とした「アカギ」という別作品が生まれたが、これほど特異で、魅力的なキャラクターもそうそうないだろうと思う。